下水調査からコロナを検出、感染拡大の予防へ
2022-04-22

セルスペクト(株)科学調査班編集

2022年4月22日更新

 下水から新型コロナのウイルスを検出し、感染症のまん延状況を把握したり、感染拡大する地域を予想する取り組みが、世界中で広がっている。

 2020年3月に胃腸病学関連の学術雑誌に載った研究から、新型コロナのウイルスは、感染後3日以内に排せつ物と一緒に体外に流れ出ることが明らかになった。下水に排出されたウイルス内の遺伝子は、薄まりながらも存在し続けることから、下水のウイルス遺伝子の濃度を調べれば、感染者が増える兆候のある地域や感染状況をいち早く特定できる。そして、ワクチンや検査場の配置を迅速、かつ的確に決められるなど、早期に感染対策を講じられる。

 この結果から、米国は2020年9月より、連邦政府や州・市政府、研究機関らで「全米下水監視システム(National Wastewater Surveillance System)」を作り、本格的な調査を始めた。サーベイランス(検査・監視)の基準を作り、地域間のデータを比較するなどして、地域の動向を把握し、保健政策に反映した。

 21年末にテキサス州の下水処理場で、オミクロン株を大量検出し、感染拡大を抑制したことから、この下水調査は、無症状が多い変異株の感染状況の把握に特に有効と見ている。 

 またPCR検査よりも6日早く、地域の感染状況を把握できるなど、感染拡大の予測に大いに役立った実績から、普及がさらに進んでいる。

 

 下水サーベイランス(下水中のウイルスの検査・監視)は、大腸菌やサルモネラ菌、インフルエンザといった他のウイルスも検出できるため、これらの感染拡大の抑制にも有効な手段となる。

 欧米より普及が遅れているものの、日本政府も21年11月に「下水サーベイランスに関する推進計画」を立ち上げ、調査研究の支援、各地域の保健衛生部局、下水道部局との連携体制のガイドライン策定などを進めている。今後の進展が期待される。

 

引用文献:

  1. Akihiko Hata et al, June 12, 2020 “Detection of SARS-CoV-2 in wastewater in Japan by multiple molecular assays-implication for wastewater-based epidemiology (WBE)”. medRxiv
  2. Eiji Haramoto et al., published online 2020 Jun 20. “First environmental surveillance for the presence of SARS-CoV-2 RNA in wastewater and river water in Japan”. Sci Total Environ. 2020 Oct 1; 737: 140405.
  3. Yongjian Wu et al, published Online March 19, 2020 “Prolonged presence of SARS-CoV-2 viral RNA in faecal samples” Lancet Gastroenterol Hepatol. 2020 May;5(5):434-435.
  4. US Centers for Disease Control and Prevention, Newstarget,CCTV2
  5. 下水サーベイランスに関する推進計画https://corona.go.jp/surveillance/

 

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