セルスペクト(株)科学調査班編集
2021年10月8日更新
―ワクチンが死亡や重症化を防ぐー
変異ウイルスのデルタ株が驚異的な感染力で猛威を振るう一方、新型コロナによる死亡・重症化は、ワクチン接種の普及によって減少傾向にある。
ワクチン接種済みの約450万人を対象にした英国の研究から、接種者は感染率が低いだけでなく、たとえ感染しても症状が軽く、完治までの期間も短いことがわかった。
この研究結果は、9月1日発行の学術雑誌「Journal of Lancet Infectious Diseases」に掲載され、「ワクチンは、重症化や後遺症を防ぎ、ブレークスルー感染※にかかる確率を下げる」と、世界中に発信した。
※ワクチンを打っていても、ワクチンが対象としている病気にかかること。
―新型コロナは風邪化するー
「新型コロナウイルスは、いずれ普通の風邪と同じくらい、ありふれたウイルスになる」。
オックスフォード大学のジェンナー研究所で、ワクチン開発チームを率いるサラ・ギルバート教授が、英国王立医学協会主催のウェブセミナーでそう発表した。
新興感染症(新たに出現した感染症の総称)のウイルスは、出現当初は重症化や死亡を引き起こす能力を持つが、次第に弱体化して、治療可能なウイルスになることから、「新型コロナもそうなるだろう」と予測。
ハーバード大学公衆衛生学院の専門家も、1918~20年に世界的大流行(パンデミック)となったスペイン風邪が、冬場によく流行するインフルエンザウイルスの一種に変わった経緯を紹介し、「新型コロナも、予防治癒可能なウイルスになる」と予想した。
この専門家はさらに、発生初期は高かった死亡率が、(スペイン風邪のウイルスがまだ蔓延している)パンデミック後期に低下した例から、獲得免疫やワクチンの効果も強調。
「感染拡大で人々が獲得した免疫が、再感染と重症化を防いだ。新型コロナのワクチン接種も、この獲得免疫と同じ効果がある」と述べた。
―風邪化となるのはいつ?ー
ウイルスが弱体化する予測の下、「新型コロナの“風邪化”を後押しするのは、ワクチン開発の促進と治療方法の確立だ」とギルバート教授は語る。
予防と共に重症化を防ぐ「ワクチン」と、効果的な治療になる「医薬品」が整えば、人が管理できる病気になり、風邪化が実現するという。
しかし、いつ風邪化するは予測しにくい。ワクチンや医薬品以外に、「ウイルスの感染力」や「ワクチンや自然感染で得る免疫の強さ」、「感染しやすい環境」、「感染予防対策」など、コントロールが難しい複数の要因も絡むため、時期が見通せないのだ。
―新型コロナを健康増進の契機に―
上記の研究から、新型コロナはいずれ風邪化し、予防と治療が可能な「日常にありふれた病気」になることが分かる。
大切なのは、安堵にとどまらず、新型コロナの教訓を未来に生かすことだ。私たちが当たり前にしている手洗いやうがいなどの感染予防、衛生環境の改善は、過去に発生した感染症のパンデミックによって定着した。
新型コロナがもたらした様々な課題の解決が、将来起こりうる他の感染症の感染拡大を防ぐのに、役立つだろう。今まさに、社会システムの在り方を見直し、人々の健康増進を図る好機である。
引用文献:
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