セルスペクト(株)科学調査班編集
2021年9月24日更新
新型コロナウイルスのワクチン接種が広がり、重症化や死亡数が減少する中、ワクチン接種後にも関わらずコロナに感染する「ブレークスルー感染」の症例が、多数報告されている。
ブレークスルー感染とは、季節性インフルエンザのように、繰り返しかかる可能性がある感染症にみられる現象。ワクチン打っていても、ワクチンが対象としている病気にかかることを指す。
新型コロナのブレークスルー感染において、最も危惧されているのが、感染力の高い変異ウイルス「デルタ株」※だ。
※驚異的な感染力でインドから世界中に広まり、2021年5月に世界保健機関(WHO)の「注視すべき変異」に位置付けられた変異株。
まず7月に、英国の科学雑誌「ネイチャー」に掲載されたフランス研究者の論文が、「デルタ株には、抗体医薬品が(従来の新型コロナウイルスに対してほど)効果を発揮しない」と発表した。
例えば、米国のメジャーな抗体医薬品「bamlanivimab(バムラニビマブ)」は、新型コロナウイルスの表面にある突起部分「スパイクタンパク質」と結合して、ウイルスの動きを封じ込める。しかし、スパイクタンパク質が一部変形しているデルタ株には、うまく結合できず、効果が弱まるという。
ワクチンや獲得免疫※も、デルタ株には効果が薄い。(※同じ病気にかからない免疫が体内にできること)
コロナ感染回復者が持つ抗体(獲得免疫)の効果を調べたところ、デルタ株に対する効果の度合いは、過去に猛威をふるった英国の変異株「アルファ株」への効果と比べ、4分の1程度だった。
また、ワクチン1回の接種では、デルタ株の侵入をほぼ防げないことも明らかになった。たとえワクチンを2回接種しても、(95%に防御効果が見られたものの)効果の強さは、アルファ株に対する防御効果の3分の1以下だった。
このように抗体医薬品やワクチンをくぐり抜け、強い感染力を持つデルタ株だが、ブレークスルー感染であれば、重症化や死亡に至りにくい。
ネイチャーに掲載されたイスラエルの研究が、ブレークスルー感染は軽症にとどまることや、ブレークスルー感染にかかる確率は、ウイルスの感染能力を消す「中和抗体」が関係していることを示している。
その研究によると、同国最大の医療センターで働く医療従事者(1万2586人)の9割が、ワクチンの2回接種を終えていたものの、39人にブレークスルー感染が見られ、大半が軽症または無症状だった。中和抗体の量が少ない人は、ブレークスルー感染になりやすく、多い人はなりにくいことも、検証から明らかになった。
「ワクチン接種者は軽症にとどまる」からといって、安心はできない。
8月のネイチャー掲載された研究では、デルタ株に感染したワクチン接種者、未接種者いずれからも、同量のウイルスが検出された。
つまり、症状の軽かろうが、ワクチン未接種者と同じぐらい感染を広げる力があるということだ。
上記の研究結果から、ワクチンを接種済みでも感染防止措置は続ける必要があるとわかる。マスク着用とソーシャルディスタンスの確保などを継続し、さらなる免疫強化のため、ワクチン3回目接種も必須だ。そして、デルタ株に対応するワクチン開発も急務である。
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